セルビア系アメリカ人の物理学者で発明家のニコラ・テスラは、電気とエネルギーに関する研究と発明で知られています。
イーロン・マスクがCEOを務めるEV(電気自動車)メーカー「テスラ」の社名は、ニコラ・テスラにちなんでつけられたもの。
マスクはニコラ・テスラの信奉者として知られ、この社名についてのインタビューに、こう答えています。「これはニコラ・テスラが発明した交流誘導電気機を使用しているからです。彼は現代社会においてあまり認知されていないから、その点に関しては多分もう少し認められるべきだと思います」。
ニコラ・テスラの生い立ち
ニコラ・テスラは1856年、オーストリア帝国(現在のクロアチア)に生まれました。父はセルビア正教会の司祭で詩人。博識な人で、ニコラのどんな質問にも答えてくれたといいます。
神童と呼ばれる兄がいましたが、ニコラが5歳のときに乗馬事故で亡くなってしまいます。ニコラは周囲の期待を一身に背負い、兄以上に勉学に励みました。8カ国語の言葉を理解し、広い分野の学問を学び、特に数学で飛び抜けた成績を収めました。
あらゆるものの中で、わたしは本が一番好きだった。
―― ニコラ・テスラ
Of all things, I liked books best.
―― Nikola Tesla
1875年、オーストリアで有数の工科大学である、グラーツ工科大学に入学。ここで電気モーターに魅了され、交流という方式を思いつきました。1880年、プラハ大学に留学。1881年、ハンガリーのブダペスト国営電信局に入局し、技師として勤務。その後ゼネラル・エレクトリック社のフランス法人で技師として働きながら研究を続け、1882年に交流電流とそれに伴う発電機の開発に成功しました。
しかしこの技術はヨーロッパでは興味を持たれませんでした。世界をよりよく変えるために、最適の地としてニコラ・テスラが選んだのはアメリカでした。1884年に渡米。発明王トーマス・エジソンのエジソン電灯会社に就職します。
ニコラ・テスラとエジソンのライバル関係
当時、トーマス・エジソンは安全性をうたう直流送電を中心としたシステムの開発を進めていました。
テスラは交流送電を提案してエジソンと敵対します。そこでエジソンは直流用に設計された工場システムを、テスラの交流電源で稼働させたら、褒賞として5万ドル払うと提案しました。当時は直流のほうが優位にあり、交流送電の実用化はまだ難しかったため、テスラは失敗して引き下がるだろうと考えての提案でした。
ところがテスラは数カ月でこれを成功させました。認めたくないエジソンは「あれはアメリカンジョークだよ」と言って褒賞金を支払いませんでした。次第にテスラは冷遇されるようになり、エジソン電灯会社を退社します。
1887年4月、独立したテスラはテスラ電灯社を設立し、交流による電力事業を推進。同年10月に交流システムの特許を出願。
1888年5月、アメリカ電子工学学会でデモンストレーションを行い、感銘を受けたジョージ・ウェスティングハウスから研究費100万ドルと特許使用料を提供されました。またウェスティングハウスはテスラのために研究所を設立し、さまざまなプロジェクトを任せました。
エジソンの直流送電はアメリカの電力事業初期における標準方式を占めていた為、エジソンは直流送電の特許使用料を手放すつもりはありませんでした。やがて交流による電力事業を推進するテスラ&ジョージ・ウェスティングハウスと、エジソンとの間で「電流戦争」に発展します。
エジソンは交流送電の危険性を広めるためのネガティブキャンペーンも展開しましたが、テスラは交流電気を放電している場でテスラ自身が読書をするショーを行い、安全性や無害化の容易さを主張しました(上の写真参照)。
結果はジョージ・ウェスティングハウス側が圧勝。ニコラ・テスラは一躍時の人となりました。
ニコラ・テスラとエジソンには、性格や発明の手法の違いもありました。
エジソンは実験発明家であり、次々に実験を繰り返して改良を重ねる手法をとりました。また、発明だけでなくビジネスの手腕もあり、富豪になりました。こんな名言を残しています。
天才とは、1%のひらめきと99%の努力である。
―― トーマス・エジソン
Genius is 1 percent inspiration and 99 percent perspiration.
―― Thomas Edison
失敗ではない。うまくいかない1万通りの方法を発見したのだ。
―― トーマス・エジソン
I have not failed. I’ve just found 10,000 ways that won’t work.
―― Thomas Edison
学問よりも、物が作られているところを見ることを重要視しました。
これに対してニコラ・テスラは理論発明家であり、まず頭の中で考えられる限りの設計を済ませてしまい、最小限の実験で発明を成功させました。
天才とは、99%の努力を無にする、1%のひらめきのことである。
―― ニコラ・テスラ
Genius is a flash of the 1% which brings an effort of 99% to nothing.
―― Nikola Tesla
忍耐が鍵です。これは多くの発明家が抱えている問題です。忍耐に欠け、頭の中でゆっくり不明瞭なままに、そして明確に問題を解決していく意志力に欠ける。それどころか感覚で仕事をすることになり、最初のアイディアをすぐに試したがるので、多額の金と多量の材料を浪費することになる。
―― ニコラ・テスラ
Patience is the key. That is a problem that many inventors have. Lack of patience, in the head, slowly, indistinctly, and clearly, without the will to solve the problem, in fact, you will work with the senses, try the first ideas immediately as we want to work, we will waste a lot of money and a lot of material.
―― Nikola Tesla
想像できるなら、あなたはそれを達成できる。私のやり方は普通と違っていて、実際の仕事にすぐに着手することはない。アイディアが浮かぶと、私はそれを想像の中で構築し始める。構造を変え、改良を加え、頭の中で機械そのものを動かす。
―― ニコラ・テスラ
If you can imagine, you can achieve it. My practice is usually different, and I do not immediately begin my work. When an idea comes up, I start to build it, in imagination. Change the structure, make improvements, and move the machine itself in your head.
―― Nikola Tesla
テスラは知識を吸収して、それを元に考え続け、自分の中から湧き上がるひらめきや直観を大切にしていました。
歌を歌いながら公園を散歩していて、何かを思いついたらしくとんぼ返りするのを目撃した、という証言もあります。
(理論物理学者のアルベルト・アインシュタインも、友人たちとおしゃべりをしながら公園を散歩しているときに、新しい理論を思いつくことが多かったという記録が残っています)。
ニコラ・テスラは発明に集中して、交流電源の他、無線、ラジオ、リモコン、モーターなど多くの発明を行い、300件ほどの特許を取得しました。
ニコラ・テスラの発明品
テスラは交流送電のほかにも数多くの発明をしています。
1888年、循環磁界を発見して超高周波発生器を開発。
1891年、100万ボルトまで出力可能な高圧変圧器(テスラコイル)を発明。きわめて高い電圧を発生させるもので空中放電のデモンストレーションで広く知られています。
1893年、無線トランスミッター(送信機)を発明。ラジオやリモコンなど無線で遠隔操作できる技術に用いられています。
回転界磁型の電動機から発電機を作り上げ、1895年にはそれらの発明をナイアガラの滝発電所からの送電に応用し、高電圧を発生させ効率の高い電力輸送を実現。
1898年、点火プラグの米国特許を取得し、無線操縦特許を取得してニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで無線操縦の船舶模型を実演。
1928年、空中輸送装置フリバー (Flivver) の特許を取得。これは垂直離着陸機(ティルトローター式)の最初期に当たります。
数々の功績により、1960年、磁束密度の単位名にテスラ(tesla、記号: T)を用いることが選ばれました。
ニコラ・テスラの仕事の名言
人の進行的な発達は、創造性に大きく左右される。
―― ニコラ・テスラ
The progressive development of man is vitally dependent on invention.
―― Nikola Tesla
私は彼らが私のアイデアを盗んでも気にしない。むしろ、彼らが自分自身のアイデアを一つも持っていないということのほうが気になる。
―― ニコラ・テスラ
I don’t care that they stole my idea . . I care that they don’t have any of their own.
―― Nikola Tesla
独りになれ。それが発明の秘訣である。独りになれ。アイデアが生まれるのはそういう時だ。
―― ニコラ・テスラ
Be alone, that is the secret of invention; be alone, that is when ideas are born.
―― Nikola Tesla
環境に配慮した技術こそが優れている。
―― ニコラ・テスラ
Only technology in consideration of the environment is excellent.
―― Nikola Tesla
直観は、知識を超越する。われわれの脳の中にある、素晴らしい組織に比べれば、論理や計画的な努力は、取るに足らないものになってしまう。
―― ニコラ・テスラ
Intuition transcends knowledge. Logic and a deliberate effort are something insignificant compared with the wonderful organization in our brain.
―― Nikola Tesla
発明は、人間の創造的な脳の最も重要なものである。発明の究極の目的は自然を人類の必要に役立てながら、物質世界を超える精神の完全なる支配を得ることである。
―― ニコラ・テスラ
Invention is the most important product of man’s creative brain. The ultimate purpose is the complete mastery of mind over the material world, the harnessing of human nature to human needs.
―― Nikola Tesla
もし生まれつきの性向を、情熱的な願望に発展させたら、ゴールまでひと足飛びで、進歩するだろう。
―― ニコラ・テスラ
Born of a propensity if, if allowed to develop into a passionate desire, by jumping pair to the goal, will progress.
―― Nikola Tesla
増大する人間のエネルギー問題に対する解決策は3つある: 食料、平和、仕事だ。
―― ニコラ・テスラ
There are three possible solutions to the problem of increase of human energy: nutrition, peace, work.”
―― Nikola Tesla
金に人を表す価値はない。お金に人のステイタスを表す価値はない。 私のお金はすべて、人々の生活を楽にするための新しい発明に費やされる。
―― ニコラ・テスラ
Gold is not worth representing people. Money is not worth expressing people’s status. All my money is spent on new inventions to make people’s lives easier.
―― Nikola Tesla
いま私たちが求めているのは、個人間と、地球上のあらゆるコミュニテイとの間の、親密なコンタクトと、より深い理解である。そして常に世界を太古の野蛮さと争いに突入させる、エゴイズムとプライドの排除である。平和は、宇宙的な悟りの当然の帰結としてしか、やって来ない。
―― ニコラ・テスラ
What we are looking for now is intimate contacts and a deeper understanding between individuals and any community on earth. Moreover, it is the exclusion of egoism and pride, which constantly rushes the world into ancient savage and battle. Peace only comes as a natural consequence of cosmic enlightenment.
―― Nikola Tesla
テスラの交流に関する先駆的な研究は、今日の電化製品から街灯まで、あらゆるものに電力を供給する電気システムを可能にしました。
テスラ本人が自分の発明したものの普及するさまを見ることはできませんでしたが、予見はしていました。
未来に真実を語らせよう。人を各自の仕事や業績によって評価させよう。現在は彼らのものかもしれないが、未来は、未来のために熱心に仕事をした私のものだ。
―― ニコラ・テスラ
Let the future tell the truth, and evaluate each one according to his work and accomplishments. The present is theirs; the future, for which I have really worked, is mine.
―― Nikola Tesla
また幼少時の兄の死や、エジソンの電気会社での不遇、晩年の発明の失敗による財政難などもありましたが、こんな名言もあります。
あなたの憎しみを電気に変えたら、世界中を明るくできるだろう。
―― ニコラ・テスラ
If your hate could be turned into electricity, it would light up the whole world.
―― Nikola Tesla
不遇の中にあってもただ純粋に、いつも自分の力をすべて出し切って世の中の役に立つ発明をしようとしたところに、彼の幸せはあったように思います。
かつてニューヨーク州ロングアイランドに、ニコラ・テスラが無線送電などの実験のために建設したウォーデンクリフ・タワーという電波塔がありました。現在その跡地には、ニコラ・テスラの業績を展示する博物館、テスラ・サイエンス・センターがあります。
2012年には、この史跡が開発業者に売却される危険性がありましたが、有志団体がクラウドファンディングでこの博物館の建設資金を募り、史跡を救うことに成功しました。テスラ・モーターズCEO、イーロン・マスクが100万ドルを寄付したといいます。
テスラの名を冠する電気自動車開発企業で自動運転などの新しい車の開発などに挑み、宇宙開発企業スペースXで宇宙輸送を可能にするロケットを製造開発し、スターリンクによって全地球を結ぶ通信網を構築するイーロン・マスクは、ある意味、ニコラ・テスラの後継者と言えるかもしれません。