ニコラ・テスラは生涯にわたって発電や送電の分野の研究を続け、交流送電、高電圧誘導コイル「テスラコイル」、無線トランスミッター(送信機)など、数々の発明をした天才発明家です。27か国で270を超える特許を取得。
独自の哲学を持ち、謎めいた逸話も残されています。今回はそんなニコラ・テスラの猫、電流戦争、恋愛、友人にまつわる逸話と、人生・愛・世界についての名言を英語原文と日本語訳でご紹介します。
ニコラ・テスラの猫にまつわる逸話
彼が電気に興味を持ったのは、1859年、3歳のとき。可愛がっていた黒猫マカクがきっかけでした。そのときのことを、1939年、83歳のときに友人である在米ユーゴスラビア大使の、12歳の娘ポーラ・フォティッチに宛てた手紙に記しています。
彼が電気に魅了されることとなった体験について、抜粋してご紹介します。
ここで、いまでも忘れられないある奇妙な体験についてお話ししなければなりません。私たちの家は海抜およそ500メートルにあって、冬はたいてい乾燥していました。
Now I must tell you a strange and unforgettable experience that stayed with me all my life. Our home was about eighteen hundred feet above sea level, and as a rule we had dry weather in the winter.
ある日、冷たい空気がいつになく乾燥していました。雪の上を歩くと足跡がくっきりと残り、雪玉を何かに投げつけると、角砂糖をナイフで切ったかのようにパッと光が飛び散りました。
It happened that one day the cold was drier than ever before. People walking in the snow left a luminous trail behind them, and a snowball thrown against an obstacle gave a flare of light like a loaf of sugar cut with a knife.
夕暮れになってマカクの背中を撫でていると、ある奇跡が起こり、私は驚きで言葉を失いました。マカクの背中が一面光り出し、私の手からシャワーのように火花が出て、その音が家じゅうに響き渡ったのです。
In the dusk of the evening, as I stroked Macak’s back, I saw a miracle that made me speechless with amazement. Macak’s back was a sheet of light and my hand produced a shower of sparks loud enough to be heard all over the house.
ニコラ・テスラはこのとき初めて、静電気という現象に出合いました。これは雷と同じ電気だという父の説明を聞いて、ニコラ少年は、電気技師になりたいと強く思ったのでした。
辺りが暗くなってきたので、すぐにろうそくに火を付けました。すると部屋の中を数歩歩いたマカクが、まるで濡れた地面を歩いてきたかのように足を振り動かしました。私はマカクから目が離せなくなりました。
It was getting darker, and soon the candles were lighted. Macak took a few steps through the room. He shook his paws as though he were treading on wet ground. I looked at him attentively.
これは本当に起きていることなんだろうか? それとも錯覚だろうか? 目を見開いた私は、マカクの身体が聖人の光輪のような後光に取り囲まれているのをはっきりと見ました。
Did I see something or was it an illusion? I strained my eyes and perceived distinctly that his body was surrounded by a halo like the aureola of a saint!
この不思議な夜が私の子どもじみた想像力にどんな影響を与えたのか、けっして語り尽くすことはできません。私は来る日も来る日も「電気って何だろう」と自分に問いかけましたが、答えは見つかりませんでした。
I cannot exaggerate the effect of this marvelous night on my childish imagination. Day after day I have asked myself “what is electricity?” and found no answer.
この体験以来ニコラ少年は、自然界にある驚くべき電力を動力源として利用するには、どうすればいいだろうと考え続けました。でもその前に、解決しなければならない問題がありました。
父ミルーティン・テスラはセルビア正教会の司祭であり、聖職者の息子は聖職者になるというしきたりがありました。しかも大好きな母デュカも(聖職者の家系に生まれたこともあり)それを強く望んでいたのです。
でもニコラはそれが嫌でたまりませんでした。両親の期待を背負い、心にはいつも黒い雲が垂れこめていました。彼は非常に好奇心が強く、深く考え、新しいアイデアを探求したかったので、聖職者になりたいとは思えなかったのです。
その後ニコラは病気になりました。生まれて初めての生命の危機が、大きな転機となります。
ニコラ・テスラは高校時代に、コレラにかかります。当時、コレラは不治の病であり、ニコラの住んでいた村の人々には伝染病に関する知識もなく、なすすべもありませんでした。9カ月もの間、生死の境をさまよう息子を励ますため、父ミルーティンは工学を学ぶことを許しました。するとニコラは驚くべき生命力を見せ、1週間もしないうちに治ってしまったといいます。
こうして、天才発明家への道ははじまったのでした。
ニコラ・テスラとトーマス・エジソンの電流戦争
ニコラ・テスラは、オーストリアで有数の工科大学である、グラーツ工科大学に入学。交流送電を思いつき、1882年に交流電流とそれに伴う発電機の開発に成功しました。
しかしヨーロッパでは興味を持たれず、アメリカに移住。発明王エジソンのエジソン電灯会社に就職しました。
しかし、いち早く直流電流の発電に乗り出し、そのための電球までも売り出していたエジソンと、交流送電を提案するテスラは敵対します。
そこでエジソンは直流用に設計された工場システムを、テスラの交流電源で稼働させたら、褒賞として5万ドル払うと提案しました。当時は直流のほうが優位にあったためでした。
ところがテスラは夜を徹して働き、数カ月でこれを成功させました。認めたくないエジソンは「あれはアメリカンジョークだよ」と言って褒賞金を支払いませんでした。次第にテスラは冷遇されるようになり、エジソン電灯会社を1年で退社します。
実験を繰り返して改良を行う実験科学者エジソンと、頭の中で設計と改良を行う理論科学者テスラとは、発明の方法に関する意見も違っていたようです。
失敗ではない。うまくいかない1万通りの方法を発見したのだ。
―― トーマス・エジソン
I have not failed. I’ve just found 10,000 ways that won’t work.
―― Thomas Edison
私はエジソンの行う実験の哀れな目撃者のようなものであった。少々の理論や計算だけで彼は労働の90%を削減できただろう。しかし彼は本での学習や数学的な知識を軽視し、自身の発明家としての直感や実践的なアメリカ人的感覚のみを信じていた。
―― ニコラ・テスラ
I was like a pathetic witness of Edison’s experiment. He could have cut 90% of his labor with just a few theories and calculations. However, he neglected learning and mathematical knowledge in the book, and believed only in his instinctive instincts and practical American sense.
―― Nikola Tesla
エジソンの直流送電はアメリカの電力事業初期における標準方式を占めていた為、エジソンは直流送電の特許使用料を手放すつもりはありませんでした。
そのころ技術者、実業家のジョージ・ウェスティングハウスは交流送電システムを推進し、エジソンのライバルとなります。
1887年4月、独立したテスラはテスラ電灯社を設立し、交流による電力事業を推進。同年10月に交流システムの特許を出願。
1888年5月、アメリカ電子工学学会でデモンストレーションを行い、感銘を受けたジョージ・ウェスティングハウスから研究費100万ドルと特許使用料を提供されました。
ウェスティングハウスはテスラを1年間コンサルタントとして雇い、1888年から大規模な多極交流電動機の導入が始められました。
交流送電システムの普及は、エジソンの直流送電システムとの対決を招くことになり、「電流戦争」に発展。
エジソンは交流送電の危険性を広めるためのネガティブキャンペーンも展開しましたが、テスラは交流電気を放電している場でテスラ自身が読書をするショーを行い、安全性や無害化の容易さを主張しました。
その後、テスラの努力の甲斐あって、交流電流の有用性と安全性は次第に人々に認められていきます。
エジソンとの電流戦争が決着したのは、1893年シカゴ万博。テスラのシステムが全面採用されました。同年、ナイアガラの滝での発電事業にテスラの二相交流モーターが採用されると、テスラは一躍時の人となり、世界中が交流へと大きくシフトしていくことになりました。
過去に偉大だったものはすべて、嘲笑され、非難され、わきへ押しやられ、抑圧された――だがその苦闘によってさらに偉大さを増し、勝利を得られたのだ。
―― ニコラ・テスラ
All that was great in the past was ridiculed, condemned, pushed aside, suppressed – only to come out greater, more victorious from this fight.
―― Nikola Tesla
テスラは経済的な損害を受け、新しい発明の普及も妨害されました。
そんな辛い時期を、過去の偉人たちの境遇に重ね合わせて、奮起し乗り越えたのかもしれません。
(自身の発明と功績について)未来に真実を語らせよう。人を各自の仕事や業績によって評価させよう。現在は彼らのものかもしれないが、未来は、未来のために熱心に仕事をした私のものだ。
―― ニコラ・テスラ
Let the future tell the truth, and evaluate each one according to his work and accomplishments. The present is theirs; the future, for which I have really worked, is mine.
―― Nikola Tesla
発明王エジソンに真っ向から挑み、その戦いに勝利したテスラ。現代でも送電には交流電流が使われており、遠くまで安定して電気を送れる仕組みを世の中に定着させた功績は計り知れません。
無線操縦、蛍光灯、ネオンサインなど現在も使われている技術も多く、磁束密度の単位「テスラ」(tesla、記号: T)にもその名を残しています。
テスラは1999年にLIFE誌が選んだ「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」に選ばれ、映画や小説、コミックなどの作品の題材にも採り上げられています。
例えば、J.P.モルガンの三女アン・モルガンの視点から、テスラという人物を描いた伝記映画「テスラ エジソンが恐れた天才」(2020年、アメリカ)。
テスラ役は「恋人までの距離」「ガタカ」のイーサン・ホーク。
エジソン役は「ツイン・ピークス」(クーパー捜査官)のカイル・マクラクランが演じています。
ニコラ・テスラの恋愛に関する逸話
テスラは天才肌の発明家であり、長身で美男であったため女性たちから大変人気があったと言われています。
1900年に、テスラはそれまでの研究をまとめた論文を「センチュリー誌」に発表。「無線通信」、「無線送電」、「ラジオ放送」、「写真電送」、「ファクシミリ」などの技術を完成させ「世界システム」と呼べる未来の情報網を構築することで、まったく新しい社会システムが誕生するとうたいました。
この論文を読んで大きな衝撃を受けたアメリカの巨大財閥のトップ、J・P・モルガンは、テスラへの資金援助を開始しました。
この縁で知り合った令嬢アン・モルガンが、テスラに思いを寄せていた時期もあったと見られています。アンは投資家、慈善家、女権拡張運動家として活動する、先進的な女性です。
しかしテスラには発明のほうを優先したい気持ちがあり、また潔癖症や感覚過敏症などを抱えていたため、生涯独身を通しました。
発明家は情熱的な激しい性格の持ち主だ。女性を愛してしまうと全身全霊で打ち込み、得られるものはすべて与えてしまうだろう。だから結婚した男に、偉大な発明などできない。
―― ニコラ・テスラ
An inventor is a person with a passionate and intense character. If you love a woman, you will be able to drive in with your whole body and give you everything you can get. So I can not make a great invention for a married man.
―― Nikola Tesla
ニコラ・テスラの友人についての逸話
テスラの友人のひとりにアメリカの作家マーク・トウェインがいます(代表作は『トム・ソーヤーの冒険』、『ハックルベリー・フィンの冒険』)。
マーク・トウェイン自身もいたずら好きな性格で逸話の多い人です。テスラ家の常連客で、テスラが電磁波による振動を応用して作ったマッサージチェアを愛用し、テスラのことを「稲妻博士」と呼んでいました。
テスラが稲妻轟く嵐の晩に生まれたことと、1899年にコロラドの研究所で、何百万ボルトの人工雷を発生させる実験をしたことが関係しているかもしれません。
また「アメリカSFの父」と呼ばれるヒューゴー・ガーンズバック(ルクセンブルク出身のアメリカの発明家、著作家、雑誌出版者)も友人のひとり。彼はテスラの死後に、そのデスマスクを製作させたといいます。
ニコラ・テスラの人生・愛・世界の名言
逆説的ですが、真実はつまり、絶対的な意味では、我々は知れば知るほど無知になっていくということです。なぜなら、自分の限界に気づけるのは、知ることを通してのみだからです。正確に言えば、知的進化のもっとも喜ばしい結果のひとつは、新しくより大きく進歩できる見込みを広げ続けることです。
―― ニコラ・テスラ
It is paradoxical, yet true, to say, that the more we know, the more ignorant we become in the absolute sense, for it is only through enlightenment that we become conscious of our limitations. Precisely one of the most gratifying results of intellectual evolution is the continuous opening up of new and greater prospects.
―― Nikola Tesla
何かを知れば、それに関する疑問が出てくるというのは、誰もが経験することでしょう。
幼い頃は周りの大人たちによって守られ、知識が足りなくても困らないし、特別なことをしなくても褒めてもらえます。でも思春期以降、自分がいかに物を知らないかということを、徐々に理解していきます。
知ることによって、知らないことが増えてしまう。ソクラテスのいう「無知の知」です。
上記の猫についての逸話にでてきた手紙でも、テスラは「何十年研究しても電気とは何かが分からない」と書いていました。
知識欲の旺盛なニコラ・テスラは、自分の無知に気づいたときにがっかりはせず、進歩できる分野を発見したと喜んでいます。こう考えると、前向きに生きていけますね。
私たちの運命を形作る影響は、本当に微妙なものだ。自分の人生のできごとを思い返してみると、運命を形作る影響は、本当に微妙なものであることに気がついた。
―― ニコラ・テスラ
The influences that shape our destiny are really subtle. When I reflect on my life’s events, I realize that the effects that shape my destiny are really subtle.
―― Nikola Tesla
過去を見直してごらんなさい。ほんの小さなことが私たちの運命に大きな影響を与えてきたことに気付くでしょう。
―― ニコラ・テスラ
Please review the past. You will notice that only small things have had a major impact on our destiny.
―― Nikola Tesla
あなたの憎しみを電気に変えたら、世界中を明るくできるだろう。
―― ニコラ・テスラ
If your hate could be turned into electricity, it would light up the whole world.
―― Nikola Tesla
ある者が「神」と呼ぶものを、他の者は「物理法則」と呼ぶ。
―― ニコラ・テスラ
What one man calls God, another calls the laws of physics.
―― Nikola Tesla
わたしたちの長所と短所は、力と物質がそうであるように切り離せないのだ。分離すれば人は存在できない。
―― ニコラ・テスラ
Our virtues and our failings are inseparable, like force and matter. When they separate, man is no more.
―― Nikola Tesla
わたしたちは世間を沸かせる新しいものを切望するが、すぐそれらに無関心になってしまう。昨日の奇跡は、今日のよくある出来事なのだ。
―― ニコラ・テスラ
We crave for new sensations but soon become indifferent to them. The wonders of yesterday are today common occurrences.
―― Nikola Tesla
愛とは作るものではく、与えるものである。
―― ニコラ・テスラ
It’s not the love you make. It’s the love you give.
―― Nikola Tesla
一人の人間ははかなく、民族や国家は誕生し消滅する。だが人類は生き残る。
―― ニコラ・テスラ
The individual is ephemeral, races and nations come and pass away, but man remains.
―― Nikola Tesla
宇宙の秘密を知りたければ、エネルギー、周波数、振動の観点から考えなさい。
―― ニコラ・テスラ
If you want to find the secrets of the universe, think in terms of energy, frequency and vibration.
―― Nikola Tesla
文明の広がりはたき火のようなものだ。初めに微弱な火花、次にちらつく炎、そして強烈な火炎と、スピードとパワーが増え続ける。
―― ニコラ・テスラ
The spread of civilisation may be likened to a fire; first, a feeble spark, next a flickering flame, then a mighty blaze, ever increasing in speed and power.
―― Nikola Tesla
科学は、非科学的な現象を研究することで、もっと進歩します。科学が、非科学的な現象の研究を始めたら10年で、今までの人類の歴史をはるかに凌駕し進化を遂げる。
―― ニコラ・テスラ
Science goes further by studying non-scientific phenomena. In 10 years, science has begun to study non-scientific phenomena, and it will far surpass and evolve the history of humanity so far.
―― Nikola Tesla
誤解はいつも、相手の立場で見ることができないことから生じる。個人間の争いは、政府や国家間と同じように、広い意味では通訳の違いによる誤解の結果だ。誤解はいつも、相手の立場になって考えることができないことから生じる。
―― ニコラ・テスラ
Misunderstanding always arises from the fact that it can not be seen from the other party’s point of view. The struggle between individuals is the result of misunderstanding, as is the case with governments and nations, due to differences in interpretation in a broad sense. Misunderstanding always arises from the inability to think in the other party’s position.
―― Nikola Tesla
いま私たちが求めているのは、個人間と、地球上のあらゆるコミュニテイとの間の、親密なコンタクトと、より深い理解である。そして常に世界を太古の野蛮さと争いに突入させる、エゴイズムとプライドの排除である。平和は、宇宙的な悟りの当然の帰結としてしか、やって来ない。
―― ニコラ・テスラ
What we are looking for now is intimate contacts and a deeper understanding between individuals and any community on earth. Moreover, it is the exclusion of egoism and pride, which constantly rushes the world into ancient savage and battle. Peace only comes as a natural consequence of cosmic enlightenment.
―― Nikola Tesla
本能は知識を超越したものだ。 私たちは論理が欠如している時や、脳を意図的に働かせる努力をしても役に立たない時に、真実を知覚できる、細いアンテナを間違いなく持っている。
―― ニコラ・テスラ
Instinct transcends knowledge. We definitely have thin antenna that can perceive the logical absence or the truth when the brain’s intentional effort is wasted.
―― Nikola Tesla
私の母は人間の本質を理解し、人をたしなめたことがない。 誰かの努力や抗議によって、人をその愚かさや悪徳から救うことはできず、本人の意志によってのみ救われることを知っていたのです。
―― ニコラ・テスラ
My mother understands the nature of humanity and has never scolded people. She knew that a man could not be saved from his own foolishness or vice by someone’s effort or protest, but only by his own will.
―― Nikola Tesla
21世紀はロボットが、古代文明からの奴隷労働に取って替わるでしょう。
―― ニコラ・テスラ
In the twenty-first century, the robot will take the place which slave labor occupied in ancient civilization.
―― Nikola Tesla