就職前に、職場の人間関係や業務内容を完全に把握することはできませんから、どの年代でも、合わずに仕事を辞める人はでてきています。
厚生労働省の資料「令和2年度における新規学卒就職者の離職率」によると、平成30年3月に卒業した新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率は、中学卒就職者55.0%、高卒就職者36.9%、短大卒等就職者41.4%、大卒就職者31.2%となっています。
中学卒就職者の約6割、高卒・短大等卒就職者の約4割、大卒就職者の約3割もの人が就職後3年以内に退職しています。ここ数年は、この数字に大きな変動は見られません。
離職の原因としては、職場の人間関係が好ましくなかった、労働時間・休日等の労働条件が悪かった、仕事が合わなかった、能力・個性・資格を生かせなかった、給与が仕事内容に見合っていなかった、会社の将来が不安だった、などが挙げられています。
苦労して就職しても、3年以内に3人に1人以上が辞めているのですから、相当に深刻な理由があったことがうかがえます。
本人の事情や気持ちは他の人には分かりづらいので、辞めたいという気持ちをすべて甘えだという人もいますが、我慢して働き続けたためにうつ病や適応障害などを発症する人も多いのですから、むしろ甘えで言っているのではない人が大半ではないでしょうか。
辞めたいと思うに至った状況について冷静にじっくりと考え、上司や人事部に相談して対処してもらうか、自分の希望に合った職場へ転職するかを、きちんと判断して決めることが先決です。
現在の会社で、自分に向いている仕事ができる部署へ異動する、人間関係に問題のある部署からの配置換えを希望する、などの方法がとれるかどうか、まず考えてみましょう。
こういう状態だったら転職した方がいい
次のような場合には、自分一人がいくら努力しても改善の見込みは薄いため、転職した方が良いと言えます。
会社側に問題がある
こんな会社は誰でも転職する、という常識のラインを超えている場合。こういう会社に就職してしまった場合、それが誰であってもうまくやっていくことは不可能ですから、早めに転職した方が心身のダメージが少なくて済みます。
- 残業が月45時間(1日2時間)以上(時間外労働の上限規制により)
- 残業代が出ない
- 人間関係が悪すぎる
- 人事制度が一貫性のある基準に則っていない
- 給与規定が納得できないものになっている/変更された
半年以上悩んでいる
仕事を辞めたいと悩んでいる状態が半年以上続いているなら、一時的な状況ではなく、慢性的に残業が多い・相談しづらいなどの状況があるので、改善はあまり期待できないでしょう。
うつ病の初期症状がある
すでに心身に不調が出ている場合、まず休んでから、原因を特定する必要があります。多いのはうつ病ですが、その初期症状には次のようなものがあります。
本人が気づく症状
- 食欲がない
- 体重が減る、体重が増える
- 眠れない
- 夜中に何回も目が覚める
- 夜中に目が覚めて朝まで眠れない
- 眠りすぎてしまう
- 体がだるい
- 疲れやすい
- 頭痛や肩こり
- 動悸
- 息苦しい
- 頭痛、胸痛、背部痛などの鈍い重い痛み
- 便秘や下痢
- めまい
- 口が渇く
- 気分が滅入る、憂うつ
- やる気が起きない、考えが進まない
- 決断できない、集中できない
- 物事を否定的にとらえるようになる (なんでも自分のせいのように感じるなど)
- 今まで気にならなかった小さなことでも落ち込む
- イライラすることが増える
- 慌てたり焦ったりすることが増える
- 一日中気分が落ち込んでいる
- 落ち込んでいる理由が分からない
- 原因と思われることを解決しても落ち込みが治らない
- 何をしても楽しめない、興味を持てない
周囲の人が気づく症状
- 暗い表情をしている
- 自分を責めてばかりいる
- 涙もろくなった
- 反応が遅い
- 落ち着かない
このような心身の不調がある場合には、(眠りが浅いために)朝起きるのが辛くなったり、(意欲を失って)仕事がつまらなく思えたり、(自信を失って)責任の重い仕事を回避したくなったりします。
カッコ内の理由部分は説明が難しく、本人も気づいていないことが多いため、そのあとだけしか人に伝えられなくなります。それで、甘えていると誤解されることが多いのです。
我慢をして頑張りすぎたとき以外にも、就職・転職・結婚などの環境の変化、悲しい出来事などをきっかけに現れることもあります。
我慢をして働き続けると悪化する一方なので、まず休みを取りましょう。病院(精神科・心療内科など)へ行って診断書をもらい提出すれば、休職できます。職場から離れると、それだけで大きく症状が軽減することもあります。軽症のうちに治療を受けた方が、病気も早く治ります。
復帰や転職については、この状態では正しい判断を下せないので、あとのことは回復してから考える、と決めておくほうが安全です。
もし休職できる期間を過ぎても症状が治まらない場合は、退職して安心感を取り戻すことが必要になります。回り道なように見えても、人生全体で見れば、重症化する前にここできちんと治療することの方が大切です。
(休職できる期間は会社によって違いますが、3ヵ月~2年が多くなっています。勤務先の就業規則などを確認してみることをおすすめします。)
引き留めようとする人のことは、取りあえず置いておく
また採用をやり直さなければならない会社の人が「甘えている」と怒ったり、事情をよく知らない友人や家族や親せきなどが「仕事を辞めないほうがいい」と忠告することもあるでしょう。
友人はあなたのためでなく、自分の利益のために忠告する。
―― トルコのことわざ
A friend advises in his interest, not yours.
―― Turkish Proverb
他人は基本的に無責任です。自分の思うことや、立場を守ることを言うだけ。本当にあなたの身になって忠告してくれる人でも、あなたの今の状態をちゃんと把握できているわけではなく、誤解していることがほとんどです。
仕事を辞めたいと悩んでいる人のほうも、一から説明する気力は残っていなかったりしますから、理解してもらうのはさらに難しくなってしまいます。
人の言うことは取りあえず置いておきましょう。あなたが正しい道を選べるようになることが先決です。みんなに分かってもらうとすると、疲れ果ててしまいます。
休んで落ち着いたけど、まだ迷うとき
休養を取り、冷静に考えられるようにはなったけど、一人で考えていても同じことをぐるぐる考えてしまうという場合もあります。家族などに相談したけれど意見が分かれていて更に迷うこともあります。
今の職場でキャリアを積んだ方がいいのか転職した方がいいのか、転職活動はどうすればいいのか、などで悩んだときは、転職エージェントで、無料で相談に応じてもらえるところもあります。
転職のプロですから、個々の事情をヒアリングして、考えるべきポイントを押さえてアドバイスしてもらえます。
辞める前にしておくべきこと
仕事を辞めると決めた場合、その前にしておいた方がいいことを挙げていきます。
よりよい再スタートを切れるよう、準備しておくことをおすすめします。
- 上司に退社の意思を伝える
- 家族の了解を得る
- 次の仕事を探しておく
- 取引先へのあいさつ
- 貯金をしておく
- クレジットカードを作っておく
特に、次の仕事を確保しておくことは大切です。次のような名言もあります。
第二の仕事は、最初の仕事についている間に計画することだ。
―― デイビッド・ブラウン(アメリカの映画演出家)
Start planning your second career while you’re still on your first one.
―― David Brown
どんなに嫌気がさしても、今の職は、もっといい仕事が見つかるまで離してはいけない。未来の雇い主は、職に就いていた者を雇いたがるものだ。
―― ロン・バーマン
If you have a job now, keep it until you find a better one – even if it’s driving you crazy. Potential employers are much more likely to hire someone who’s already working.
―― Ron Berman
退職してから、仕事を確保できるかどうかというプレッシャーの中で転職活動をするよりも、在職のまま、落ち着いて転職先を探した方が良い転職先を見つけられます。
転職エージェントを利用すれば、在職のまま転職活動をすることも容易になります。上司に退社の意思を伝える、求人情報を探す、面接対策をする、入社と退社のスケジュール調整をする、などの場面で相談に乗ってもらえます。仲介手数料は企業側が支払うので、求職者は無料でサポートを受けられます。