ドイツの哲学者、フリードリヒ・ニーチェの名言「事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである。」を英語訳と英単語帳つきでご紹介します。
名言「事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである。」の英語訳
事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである。
―― フリードリヒ・ニーチェ(ドイツの哲学者)
There are no facts, only interpretations.
―― Friedrich Nietzsche
外界にどのような事実が存在したとしても、私たちは常に、自分の心の中でそれを解釈して捉えています。心や解釈を通さずに直接、物事を認識することはできません。心を通さなければ理解ができないからです。
ビデオカメラが無機質な正確さを持って録画するのとは違い、人間は感情や欲求といったフィルターを排除しきれません。
冒頭の名言は、『権力への意志』の中に書かれています。
Against that positivism which stops before phenomena, saying “there are only facts,” I should say: no, it is precisely facts that do not exist, only interpretations.
現象に立ちどまって「あるのはただ事実のみ」と主張する実証主義に反対して、私は言うであろう、否、まさしく事実なるものはなく、あるのはただ解釈のみと。
単語 | 発音記号 | 品詞 | 意味 |
positivism | pάːzətɪvìzəm | 名詞 | 【哲】 実証哲学、 実証主義 |
phenomena | fənάmənə | 名詞 | phenomenon の複数形 |
phenomenon | fənάmənὰn | 名詞 | 現象、事象 |
fact | fˈækt | 名詞 | (実際に起こった)事実、(理論・意見に対して)事実 |
precisely | prɪsάɪsli | 副詞 | 正確に、まさに |
interpretation | ɪnt`ɚːprətéɪʃən | 名詞 | 解釈、説明 |
Friedrich | fríːdrik | 名詞 | フリードリヒ |
Nietzsche | níːtʃə | 名詞 | ニーチェ 《1844‐1900; ドイツの哲学者》 |
この後、以下のように続きます。
私たちはいかなる事実「自体」をも確かめることはできない。おそらく、そのようなことを欲するのは背理(はいり)であろう。
「すべてのものは主観的である」と君たちは言う。しかしこのことがすでに解釈なのである。「主観」は、なんらあたえられたものではなく、何か仮構(かこう)し加えられたもの、背後へと挿入されたものである。
総じて「認識」という言葉が意味をもつかぎり、世界は認識されうるものである。しかし、世界は別様にも解釈されうるのであり、それはおのれの背後にいかなる意味をももってはおらず、かえって無数の意味をもっている。
世界を解釈するもの、それは私たちの欲求である、私たちの衝動とこのものの賛否である。いずれの衝動も一種の支配欲であり、いずれもがその遠近法をもっており、このおのれの遠近法を規範としてその他すべての衝動に強制したがっているのである。
<『ニーチェ全集〈13〉権力への意志 下』(ちくま学芸文庫)>
実証主義の哲学者たちは、「現実にこの物質世界で起きた事柄は事実だ」と言うけれども、ニーチェは、それを否定しています。
彼らの言う事実とは、物理的な現象を観察し解釈しただけであって、それをもって事実とすることが明確に正しいことだと証明できていない。
彼らの言う事実とは、情報という、主観的な結論に過ぎない。
本の解釈が読者にゆだねられているのと同じように、世界の解釈は世界を観察する者にゆだねられていて、世界の正しい解釈を限定することができない。
世界がどのように動いているのかを、我々が理解できているかどうかはあまり重要ではなく、解釈を発展させていくことのほうが重要だ。
……ということではないでしょうか。ニーチェの主なテーマが、人間性をより強固なものへと推し進めていくことだからです。そして世界を正しく解釈することが、その助けになるからです。